あの夏よりも、遠いところへ

そもそもふたりがいつから付き合っているのか、わたしは知らないしな。

わたしたちがこっちに来たばかりのころはたぶん、両想いではあるけれど、付き合ってはいなかったと思う。気付いたら始まっていて、気付いたら陽斗が大阪に来ていた。そんな感じ。


「じゃあ、そろそろ私、行くね」

「はーい、いってらっしゃい」

「いってきます」


ささっと化粧直しをした雪ちゃんは、ふんわりとした笑顔だけを残して、足早に家を出て行った。

ピンク系統のお化粧は雪ちゃんにとってもよく似合う。窓の外の桜の木を見て、春らしくていいなと思った。


ドラマも終わったし、洗い物も終わったし、なにをしよう。新学期だし、課題も無い。

……そうだ。天気がいいから、散歩でもしようかな。

暇を持て余していたわたしは、あの鮮やかなピンク色に誘われるがままに外に出た。


桜はあまり好きではない。すぐに散ってしまうから。散った後の桜は、とてもじゃないけどきれいじゃない。

世の中はお花見だとか浮かれているけれど、はたから見たら、大人のどんちゃん騒ぎなんて汚くて見ていられないよ。


公園で遊ぶ幼い子どもたちを見て、胸の奥がきゅうっと切なくなった。

みんな最初はあんなにかわいい生き物だったのに、嫌だな。大人になればなるほど、どんどん汚れていく。擦れていく。


わたしも、頭上から降ってくる桃色をきれいだと、無邪気に追いかけていた時期が、きっとあった。
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