あの夏よりも、遠いところへ
 ◇◇

新学期が始まって1週間が経つころには、もう桜はほとんど散ってしまっていた。

わたしがいちばん嫌いな時期。地面に落ちて踏まれるだけの花びらは、やっぱり今年もとっても汚い。



「なあ委員長、掃除変わってくれへん?」

「え、でもきょうは……」

「うちらめっちゃ忙しいねん、委員長と違て。どうせ暇やろー?」


うちのクラスはすごい。まだ顔を合わせて1週間しか経たないのに、もうイジメってやつが始まっているんだもん。

委員長、と呼ばれた眼鏡の彼女は、4日前、イジメをしているグループに無理やり委員長にさせられた。わたしだけじゃない。そんなのクラスみんなが知っている。


「変わってくれへんなら別にええけど……なあ?」


グループの代表格の女が、口元を醜く歪ませて笑った。委員長は黙ってモップを受け取って、弱々しい手つきで掃除を始める。

馬鹿馬鹿しい。弱い者いじめほど見ていて不快なものはないっての。


「あはは、さすが委員長! ほんまにアリガトっ」


そのアリガトウは、ザマアミロに聞こえた。

茶色に染めた髪を揺らしながら帰っていく3人分の後ろ姿に、委員長の代わりにわたしが文句を言ってやりたかった。

なんでなにも言わないんだろう。クラスみんな知らんぷりだし。

自分には関係のないこと。そうやって見て見ぬ振りをすることを、人はいつから覚えてしまうんだっけ。
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