あの夏よりも、遠いところへ

こんなやつのために、あいつらに文句なんか言ってやらなくてよかった。


「……あっそ。じゃあ勝手にすれば」

「き、北野さん……」

「1年間ずっといじめられてれば!」


いじめる人間が100%悪いとは思う。委員長に悪いところなんかひとつも無いもん。

けど、違う。悪いところが無いくせに胸を張って生きていないのは、ダメ。わたしは悪くないぞって、もっと反抗してみせればいいのにさ。


「北野さんっ……!」


ああ、新学期早々胸くそ悪い。

追いかけてくる高い声を振り切って、乱暴に教室を出た。むかつく。そんなに大きな声を出せるなら、普段からそうしていてよ。

イジメって、周りの人間もキツイんだ。


……ショパンが聴こえる。どこから?

その切なくて甘い旋律に引き寄せられるように、その足で音楽室に向かった。

きっと、いつもなら聴き流して帰っていたと思う。でもきょうは、このもやもやした気持ちを、あの旋律に乗せてどこかへ飛ばしてしまいたかった。

世界はこんなにも汚いものであふれているのに、音符だけはいつだって、優しく心を撫でてくれるんだ。
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