あの夏よりも、遠いところへ
 ◇◇

もうすぐで球技大会らしい。ちょっと浮足立っているのはたぶん、この2年3組だけじゃなくて、全校生徒みんなだと思う。

きょうの放課後は競技とチーム決めだそうで、体育委員にクラス全員残された。

べつになんだっていいのに、面倒くさいな。こんなの運動部員のためのイベントじゃん。


「なあ、俺バスケで出たらあかんのー?」

「アカン言うてるやん。蓮はバスケ部なんやから」

「そんなん黙ってたら分からへんって!」

「アホか! オレが怒られるんじゃ!」


がやがやしている教室のなか、体育委員と言い合っている清見の声がぽんと耳に届いた。

清見、バスケ部だったのか。知らなかったな。ピアノを弾くくせにバスケ部だなんて、いったいどんな神経をしているんだろう。身長もそんなに高いわけじゃないし、変なの。

結局バレーのところに名前を連ねられた清見は、あからさまにしゅんとしていて、笑える。そんなに出たかったのかよ、バスケ。上手いのかなあ。



「――あ、やばいわ、これ」


ふと、あの嫌な声が聴こえた。ちょっと含み笑い気味の、鼻に掛かった高い声。

女子のほうの黒板を見ると、バスケの欄に『北野』と書かれていて驚いた。勝手に決められてる。まあいいけど、なんでも。得意な球技があるわけでもないし。


「ねえ、委員長どこに入れる? もう入れるとこ無いやんなあ」


馬鹿にしたような笑い声と同時に茶色い髪が揺れて、吐き気がした。
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