あの夏よりも、遠いところへ
けれど、そんな彼女の勇気をも、あいつらは簡単に踏みにじるんだ。
「黙れや」
「え……?」
「なに意見しようとしてんねん。はあ?」
世の中は理不尽にまみれている。
そう思って生きてきたけれど、だからこそ、こんなのは腹が立つ。
なにかが切れる音がした。頭の中で、ぷつんと。
「うるっさいなあ!」
教室中が静まり返った。やばい。興奮しすぎて、ちょっと大声になりすぎちゃったかもしれない。
リーダー格の茶髪の眉がぴくりと動くのを、わたしは見逃さなかった。けれどもう、引き返せない。引き返すことなんか最初から考えてなかったけどさ。
だから、クラスメートの視線を一身に浴びながら、それでも堂々と口を開いてやった。
「いつまで中学生みたいなことしてんだよ、馬鹿馬鹿しい。『意見を言え』って言ったと思ったら『言うな』って、あんた頭悪いんじゃないの?」
「なんやねん、おまえ。めっちゃうっといねんけど!」
「鬱陶しいのはあんたのほうだよ」
「はあ? 調子乗ってんちゃうぞ!」
驚いた。まさか髪を掴まれるなんて、正直予想できていなかった。
突然、物凄い力で髪を掴まれて、そのまま引っ張られていた。ぶちぶちと、何本か抜けたり切れたりする音が、そのまま頭に響いてくる。
女子の喧嘩ってすごいんだな。それにしても、めちゃくちゃ痛い。