あの夏よりも、遠いところへ
バレーコートは体育館の中に設置されている。南半分がバレーコート、北半分がバスケコート。
脇の梯子を上って上から見下ろすと、すぐに清見を見つけた。
清見は小柄でもないし、特別大きいというわけでもない。それでも運動神経はいいほうなのだろうということが、なんとなく伝わる。
あ、ちゃんと指にテーピングをしているな。普段、部活をするときにも、ちゃんとしているのかな。
「……清見、バレー全然ダメじゃん」
あんなに必死にバスケをやりたがっていた理由が分かった。
たぶん、物凄くバスケが上手いわけじゃなくて、ただ単にバスケ以外のスポーツが出来ないだけなんだろう。
面白いやつ。運動神経はいいくせに、本当に、全然ダメダメじゃん。
「あれ。北野さん、清見くんのこと見てるん?」
「だって他の人は知らないもん」
「ええっ。みんなクラスメートやのに!」
そうだけど、話したこともないし、名前と顔すら一致しない。
男子だけじゃないけど。女子でもそういうのがちらほらいる。ちらほらどころじゃないかもしれない。たぶん半分以上。
「あ、そっか。清見くんとは出席番号が前後なんやねー」
「うん。それに……」
それに、良いピアノを弾くから、知っている。あんなに素敵なショパン弾きを、わたしは他に知らない。