あの夏よりも、遠いところへ
保健室につくころには、清見のタオルはすっかり赤く染まっていた。
「うわ、めっちゃ血ィ出てるやん。やっば」
「ごめん、タオル……」
「ん? ああ、べつにええで。渡したんは俺やし」
それにしても物凄く情けない。こんなことになるのなら、いっそ失神でもすればよかった。
「ちゅーか、なんで先生おらんねん」
「ただの鼻血だし大丈夫だよ」
「大丈夫ちゃうやろ。腰抜けて立てへんかったやつがなに言うてんのや」
それは、まあ、なんというか、血が苦手で。
でもそんなことは知られたくなくて、なにも言わないでむすっとしていると、清見は小さく笑った。
「ほんまオモロイよなあ、北野」
「なにが」
「こないだはめっちゃかっこよかったのにさあ!」
「はあ?」
「こないだ、球技大会のチーム決めるいうて放課後残ったやろ。あのとき。『うるっさいなあ!』て、めっちゃかっこよかったで、アレ」
止血のために大量のティッシュをわたしに手渡しながら、清見がまぶしそうに目を細める。
窓から吹き抜ける風がカーテンを揺らして、同時にわたしの髪も揺らした。光を受ける清見の短い髪は、少し明るく輝いていて、きれいだと思った。
わたしは真っ黒だから、地毛が明るいの、羨ましいな。