あの夏よりも、遠いところへ
「……全然、嬉しくないよ」
「ん?」
「だってあんたも同じじゃん。なにもしなかったんだ。いじめてたやつらと同罪だよ」
片瀬があいつらに嫌がらせを受けていたこと、たぶん、クラス全員が知っていた。
それは清見も例外ではない。さっきまで一緒にバスケの試合をしていたチームメートも、上から応援をしていた男子たちも、みんな、同じ。
「……おう。そうかもしらん」
「かもじゃなくて、そうなんだよ」
「うん、ごめん」
しゅんと肩をすくめた清見の顔から笑顔が消える。
「……こわくなかったん?」
「なにが?」
「あしたから自分がいじめられるかもとか、そういうの、考えへんの? なんであんなことできるん?」
あのときは頭に血が上っていたから、正直、なにも考えていなかったと思う。
さすがに家に帰ってからは、あしたからどうしようとか、そういうことも考えたけどさ。
でも、しょうがないんだよ。片瀬の勇気を簡単に踏みにじるあいつらを、どうしても、許せなかったんだ。
「考えたってなにも変わんないよ」
そう。考えたってなにも変わらない。
ひとつの理不尽を潰したって、世界はやっぱり理不尽なまま、いまこの瞬間も、速度を変えずに回り続けているんだから。