あの夏よりも、遠いところへ
すげえとつぶやいて、清見がまた笑った。今度はお腹を抱えて、くくくと声を漏らしていた。
そしてすぐ、はっとした顔になり、わたしの顔を覗き込む。
「俺の名前は?」
不安そうな表情と声に、今度はわたしが笑ってしまいそう。
「清見蓮でしょ。知ってるよ」
「よかった……」
ハスって書いて、蓮。いい名前だなあと思う。
清見蓮。北野朝日と比べると、すっとしていて、きれいな名前だ。
「……なあ、今度、見に来る?」
「なにを?」
「バスケ。試合あんねんか、土曜」
驚いた。どんなタイミングだよ。ていうか、どうしてわたしが?
「さっきのバスケ、めっちゃつまらん顔しとったやろ? バスケてもっとオモロイねんで。やし、見に来て」
「清見は出るの?」
「出る。ガードな」
ポジションの名前は分からなかったけれど、訊くのも面倒で、へえとだけ返事をしておいた。
わたしはピアニストの清見しか知らない。
だから少し興味が湧いた。ピアニストじゃない、バスケ部員の清見に。
「……分かった」
すっかり鼻血は止まっていた。タオルを汚してごめんともう一度謝ると、清見はまた、くにゃっと笑った。