あの夏よりも、遠いところへ
北野には真顔で否定されてしまったけれど。
「北野さんて、ちょっと近寄りがたい感じやんなあ」
「うーん、まあな」
「勿体ないやんな。もっとにこにこしとったらええのに」
北野はべつに、すげえ美人というわけではない。普通。どちらかというと、わりと童顔。いつもの不機嫌顔がそんなかわいらしいイメージなんか吹き飛ばしちまうんだけどさ。
真っ黒な髪は肩で揃えてゆるい内巻きにしているけれど、時たま寝癖がぴょこんと出ていて、それが物凄く笑える。
「……なんやねん、遠藤。もしかして北野のこと狙てるん?」
「そう言う清見のほうがぜんっぜん怪しいけどな!」
「俺はちゃうって!」
気になる理由は、彼女が標準語で話すことと、いつもむすっとしていること、それから、真っ直ぐな目をしていることだと思う。
すげえと思った。片瀬さんのために怒った北野は、たぶん、ウルトラマンよりもスーパーヒーローだ。
「いやあ、でも、さすがにアレは惚れそうなったわ」
あの出来事はあまりに衝撃的すぎて、北野の知らないところで、いまだに伝説になっている。通称『アレ』。
「遠藤は軽々しくそういうこと言いすぎや。どんだけ惚れんねん」
「いやいや、清見には負けるけどやん? 北野さんのことに関してはな」
「おまえほんましばくぞ」
あんなレジェンドをなんでもない顔でやっちまうんだから、北野はたぶん、本当にスーパーなやつなんだ。