あの夏よりも、遠いところへ

きょう、来てくれるんだろうか。

さらりと「見に来て」なんて言ってみたけれど、その3秒後には、心臓は破裂しそうなほどばくばく鳴っていた。

いまも同じ。

別に、なんでもねえ練習試合なんだけどさ。かっこ悪いところ見せらんねえなって、変なプレッシャー。


「お、そろそろ始まる」


遠藤の呼びかけに、ストレッチをやめて、ふたりでコーチのもとへ走った。

きょうの練習相手は強豪だから、コーチも少しばかり熱が入っているみたいだ。


俺はすげえ戦力ってわけでもないけど、いつもスタメン。他にポイントガードのやつがいないからだと思うけど。頭の良くない俺でいいのかなって思わなくもねえけど、試合に出れるのは嬉しいからあんまり考えない。

ちなみに遠藤はシューティングガード。背も高いし、センスもあるし、顔も男前だし、ぴったりだと思う。シュート率もすげえ。

練習試合だってのに体育館の脇に女子の団体がいるのは、おそらく、うちの良くできるシューターのせいだ。


あのなかに、きっと北野はいない。

北野は群れない。つんとすまして、まるで世界には自分ひとりしかいないかのような顔をしているんだ。


「っしゃ! しまってくぞ!」


キャプテンの声で気合を入れて、いよいよコートに入った。北野はまだ来ていない。
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