あの夏よりも、遠いところへ
俺はそんなに背が高くないから、ボールを持って走ることしかできない。
チャンスがあればシュートだって撃つけど、やっぱりでっけえやつに邪魔されちゃ、決まるわけねえもんな。
「遠藤っ」
「おう!」
パッとしてシュッて感じ。遠藤のシュートには無駄が無くて、チームメートだけど、正直何度だって見惚れる。
同時に上がった、きゃあという黄色い声はむかつくけど。笑顔で答える遠藤はたぶん、根っからのアイドル気質だ。
「どしたん? ちらちら入口のとこ見て」
「いや……べつに」
北野、来ねえなあ。これじゃ試合に集中できねえじゃん。
せっかく強豪校との貴重な練習試合なのに、もったいない。
やっぱり忘れてんのかな。でも、北野はたぶん、簡単に約束を破ったりするようなやつじゃない。
「……あ?」
「え?」
「あれ、北野さんちゃう?」
「え!?」
遠藤の口元がまた、いやらしく歪んだ。
体育館の入口とは逆の、裏のほうの扉のところ。彼女は居心地が悪そうに、俺のことを真っ直ぐ見つめていた。
私服だ。はじめて見た。ショートパンツにTシャツっていうラフな服装がとても彼女らしくて、どきどきした。
「おまえ、めっちゃ見られとるやんけ」
本当だよ。見つめられているというより、もはや睨まれているような感覚だっての。