あなたには音をあたしには色を



………


「で、どうよ?」


夕方、学食で。
待ち合わせの時間に少し遅れて来た一美は、詫びれる様子もなくテーブルを挟んで早速あたしの顔を覗き込んできた。

昨日とは違う一美の化粧気のない顔が、つるんとして卵みたい。


「なにが、どうよ? なの」


「何がって、ミッチーでしょう」


そう言って汚いつなぎ姿で笑う一美は、彫刻を専攻している。
今は展示会前なので、いつもより張り切っている。

化粧もしないで、つなぎ姿で。
そうして、
「体力使うのよ」
と言い訳をして、一美はお気に入りのロールケーキを一人で一本平らげてしまう。

長い髪を耳の後ろで無造作に束ねて、形振り構わずにロールケーキを頬張る一美の姿は、その辺の下手な男より男前だ。



< 12 / 28 >

この作品をシェア

pagetop