あなたには音をあたしには色を
「……どうもないよ。あいつは相変わらずだし。今日なんてね、中間講評会サボったんだよ? ありえないよね」
あたしはそう言いながら、アクリル絵の具で汚れたエプロンのポケットから煙草を取り出して火をつける。
こうして学食で、この時間から窓際を陣取ってくだらないお喋りをするのが、あたし達流の息抜きだ。
それがいつの間にかあたしと一美の恒例になってしまった。
時々はここに、光郎も加わる。
「えーーっ、度胸あるねミッチー。とうとう、やめちゃうつもりかな」
「やっぱり、やめるのかな」
「やめるんでしょ」
「だよね」
「なんか、デビューする気みたいじゃん? ミッチーのバンド」
「え? まじ?」
「うん。デザイン科の子に聞いた」
デビュー?
ああ、まさに。
あいつの言い出しそうな事だ。
………
煙草の煙を吐きながら、ふと、学食のガラス窓に目をやると、ブラリブラリと長い手足を揺らして、光郎がこっちへ向かって歩いているのが見える。
「あ、噂をすればだ」
あたしが見つけるのとほぼ同時に、一美も奴の姿を見つけたらしい。