あなたには音をあたしには色を
「いーーのよ別に。オイラにはギターがありますから」
やっぱり光郎は酔っているのだ。
このテーブルの上のビールのカンカンは、もしかしたら今日3本目くらいかもしれない。
光郎が自分を「オイラ」と呼び始めると、それは大概が光郎の酔いのサインであり、語りのスタートでもある。
あたしはほんの少し、身構えた。
「……酔ってんでしょ、あんた。それ、何本目?」
「これ?……3本目」
「中間講評サボっちゃってさ、どーすんの? 」
「んふ」
「んふ、じゃないよ。単位落とすよ?」
「単位? いや、もう落としてるしね、だいぶ」
「まじで?」
「ん、いーの。オイラ、もう、やめっからさ」
「やめる?」
「そ、やめる。学校」
………
パチン
光郎はテーブルの上のカンカンに手を伸ばし、細い人差し指でプルタブを弾いた。
パチン
パチン
…チン
パチン
不定期なその音が、学食に響き渡る。
レポートに視線を落としていた三人組が、チラリと怪訝そうな眼差しでこっちを見た。