あなたには音をあたしには色を
「……ふーーん」
「ふーーんて、お前、驚かないの?」
「や、だって。噂で聞いてたし。デビューするんでしょ? 」
「お、さすが」
「いや、さすがって……さっき一美に聞いた話だし」
「……なーーんだ」
なーーんだ、じゃないでしょう。
だってあたし、昨日まで光郎のギター、知らなかったんだし。
第一。
あたしは光郎の絵が好きなんだ。
憧れてたんだ。
できれば、やめてほしくなかったな。
……ギターもまあ、そりゃあ、素敵だったけれど。
「……どうして、ギターなの?」
「へ? 」
「いや、だから、さ。なんで絵じゃなくて、ギターなの? って」
あたしのそんな質問に、光郎は呼吸を整える様にして言った。
「……サヨコさあ、こんな風に考えた事、ない?」
………
パチン
パチン
パチン
光郎はまた、多分無意識にプルタブを鳴らし始める。
その横顔は、なんだかひどく生真面目だ。
「……色と形ってさ、単独で見ると、絶対的に正しいじゃん」
光郎は酔うと、よく芸術論を語りたがる。
あたしは内心、また始まったか、と思った。