あなたには音をあたしには色を



「それなのにさあ、人間様が、ああでもない、こうでもないっていじくり回して。そうじゃないとか、バランスが悪いとか配色が悪いとかさ。評価されたり評価したり。随分、おこがましいと思わない?」


「………」


光郎が熱くなり出した。

プルタブのパチンパチンのリズムが、さっきよりも幾分早く感じられる。


あたしはこんな時はいつも、何も言わない事にしている。
言えない、という表現の方が正しいのかもしれないけれど。

あんまり口を挟むと、少し面倒な事になるのだ。


「だけどね、もちろん音だってそうなんだよ」


光郎はまるで、自分に言い聞かせる様にして言う。


「気持ちいいかよくないかなんて、人間様の都合なんだ。存在する色や形や音はそれだけでみんな正しい。そう思うだろ? 」


あたしはその言葉に、いつもの様に僅かな同意の笑顔を作る。

それを見て、光郎は満足そうに続けた。


「その正しさを組み合わせて気持ちよくなろうなんて、酷い話だろ。オイラたちが自由に扱ってもいいのは、せいぜい言葉くらいなんだ。自分達が作ったんだからね。だから見ろ、小説家は言葉の持つキャパシティーに絶望して、みんな自殺する」



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