あなたには音をあたしには色を



………


「お前さーー、たまにはライヴのチケット買ってくんね?」


そう言って光郎が、階段の踊り場で一服しているあたしにチケットを売りに来たのが、今日のライヴの一週間前。


「は? えーー、珍しいね、チケット、全部さばけなかったの? てか、一週間後じゃん」


思えば光郎がチケットをあたしに売りつけようなんて、バンドを始めて2年、今まで一度だってなかったのに。


「まーーね。な? 二枚。カズミと一緒に来いよ、たまには」


「うえーーっ」


「うえーーじゃねえよ。お前さ、俺のライヴ来てくれたことねえじゃん」


「えーー? だって来いって言われたことないし」


「そうゆう問題かあ?」


「そうゆう問題でしょ」


………


あの時、千円札3枚と引き換えに受け取った2枚のチケット。

その内の1枚は今、半券になってあたしの財布の小銭入れに入っているけれど。
あたしの胸の中には、さっきの光郎のギターはうまく収まっていない。


口から目から鼻から毛穴から、今にも溢れてきてしまいそう。
光郎の、ギターのキラキラの粒々が。




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