あなたには音をあたしには色を
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光郎がギターに夢中になっていたのは知っていた。
光郎のアトリエには、いつもお兄さんのお下がりのクリーム色のギターが置いてあって、タオルを巻いた光郎の頭にはいつも黒いヘッドホン。
近付くと、シャカシャカシャカシャカ、いつもテンポの早い音楽が漏れていた。
時々エアーギター風に、指を動かしたりしている。
アトリエの光郎の数枚のキャンバスはいつも中途半端で、批評会の度に教授に「やめてしまえ」と怒鳴られている。
せっかく入った美大なのに、光郎の頭の中はいつからか、いつも音楽やギターの事でいっぱいだった。
光郎は一年生の時からデッサンも油絵も上手で、教授にはいつも特別目をかけてもらっていたのに。
できる人ってわからない。
あたしなんかから見たら、光郎が筆を途中で置くのはただの贅沢病のようだった。