春雪
ちゃんと話し合ったおかげで2人の間には和やかな雰囲気が流れていて心地よい。
私はテーブルがコップの水滴でぬれていたので近くにあったふきんに手を伸ばすと、その手を雅輝くんが掴んだ。
「? どうしたの?」
「少し部屋が暗くなってきたな……」
「あ、うん。結構長く話してたんだね。電気つけるね?」
そう言って立ち上がろうとしたけれど、雅輝くんは私の手を掴んだまま離そうとしない。
「雅輝くん?」
いったいどうしたのかと思って名前を呼ぶと、雅輝君は私の手を軽く引っ張った。
「ここ」
「こ、ここって私がそこに座るの?」
雅輝君が軽く床を叩いて指定してきたのは雅輝君の足と足の間。
スキンシップが苦手なのか、あまり私に触れようとしなかった雅輝君の行動に戸惑ってしまう。
「えっと……何?」
結局引っ張られるまま素直にテーブルと雅輝くん間に座ると、体を後ろから優しく抱きしめられ背中に雅輝君の頭がのせれらた。
陽も陰り、薄暗くなった部屋で背中から雅輝君の体温が伝わってくる。
今まで雅輝君が私に甘えるような仕草を見せたことはない。
彼は自分を人に見せたがらない人だ。
いったいどうしたのかと心配になってしまう。
「女は嫌いだ……」
「え?」
囁く様な声が背中越しに伝わってくる。
雅輝君の言葉に理解が追いつかず動けなかった。
「たぶん……俺は女性不信なんだろう。女は利己的で計算高くしたたか……自分のことしか考えられない生き物なんだと思ってた」
言われた言葉に心臓がトクンと音を立てる。
「俺が中学に入ったばかりの頃、両親が離婚した。父は一方的に離婚をつきつけ当然納得出来なかった母は反発した。しばらく揉めた後、父は母の目の前に現金5000万を置いた……。母は無言でそれを掴むと俺を置いてそのままどこかにいなくなった……」
「……」
「母が出て行って次の週には若い女が家に来た。その女は父の部下だった女で、父はその女に夢中になり言われるまま母を追い出したらしい。女はまだ若く派手なメイクとまだ子供だった俺にも知っている有名なブランドに全身を包み、しばらくしてから父と再婚した」
淡々とした声が背中越しに聞こえる。
けれどその声音はいつもとは違う低い声で、雅輝君が辛い過去を思い出しながら話していることがわかった。
私は自分の体に回された雅輝君の腕にそっと触れる。
触れた所から雅輝君の辛い気持ちが私に移ればいいのにと、思いながら……。
「女は父と再婚しても家事は一切せずにすべてヘルパーに任せ、ブランド物の買い物に夢中で当然俺のことにも関心はなく、俺にとって女は家でたまに見かける他人でしかなかった」
そこまで話すと雅輝君は黙り込んでしまった。
きっと今まで自分の心の奥に閉じ込めていた思い出なのだろう。
誰にも言わずに押し殺してた想いは、閉じ込めていた時間が長ければ長いほどなかなか言葉に出来ない。
私は静かに彼が話しだすのを待った。
私はテーブルがコップの水滴でぬれていたので近くにあったふきんに手を伸ばすと、その手を雅輝くんが掴んだ。
「? どうしたの?」
「少し部屋が暗くなってきたな……」
「あ、うん。結構長く話してたんだね。電気つけるね?」
そう言って立ち上がろうとしたけれど、雅輝くんは私の手を掴んだまま離そうとしない。
「雅輝くん?」
いったいどうしたのかと思って名前を呼ぶと、雅輝君は私の手を軽く引っ張った。
「ここ」
「こ、ここって私がそこに座るの?」
雅輝君が軽く床を叩いて指定してきたのは雅輝君の足と足の間。
スキンシップが苦手なのか、あまり私に触れようとしなかった雅輝君の行動に戸惑ってしまう。
「えっと……何?」
結局引っ張られるまま素直にテーブルと雅輝くん間に座ると、体を後ろから優しく抱きしめられ背中に雅輝君の頭がのせれらた。
陽も陰り、薄暗くなった部屋で背中から雅輝君の体温が伝わってくる。
今まで雅輝君が私に甘えるような仕草を見せたことはない。
彼は自分を人に見せたがらない人だ。
いったいどうしたのかと心配になってしまう。
「女は嫌いだ……」
「え?」
囁く様な声が背中越しに伝わってくる。
雅輝君の言葉に理解が追いつかず動けなかった。
「たぶん……俺は女性不信なんだろう。女は利己的で計算高くしたたか……自分のことしか考えられない生き物なんだと思ってた」
言われた言葉に心臓がトクンと音を立てる。
「俺が中学に入ったばかりの頃、両親が離婚した。父は一方的に離婚をつきつけ当然納得出来なかった母は反発した。しばらく揉めた後、父は母の目の前に現金5000万を置いた……。母は無言でそれを掴むと俺を置いてそのままどこかにいなくなった……」
「……」
「母が出て行って次の週には若い女が家に来た。その女は父の部下だった女で、父はその女に夢中になり言われるまま母を追い出したらしい。女はまだ若く派手なメイクとまだ子供だった俺にも知っている有名なブランドに全身を包み、しばらくしてから父と再婚した」
淡々とした声が背中越しに聞こえる。
けれどその声音はいつもとは違う低い声で、雅輝君が辛い過去を思い出しながら話していることがわかった。
私は自分の体に回された雅輝君の腕にそっと触れる。
触れた所から雅輝君の辛い気持ちが私に移ればいいのにと、思いながら……。
「女は父と再婚しても家事は一切せずにすべてヘルパーに任せ、ブランド物の買い物に夢中で当然俺のことにも関心はなく、俺にとって女は家でたまに見かける他人でしかなかった」
そこまで話すと雅輝君は黙り込んでしまった。
きっと今まで自分の心の奥に閉じ込めていた思い出なのだろう。
誰にも言わずに押し殺してた想いは、閉じ込めていた時間が長ければ長いほどなかなか言葉に出来ない。
私は静かに彼が話しだすのを待った。