インモラルな憂鬱。
「あのね、夏目。桜子は、明日デートするはずだった彼氏にドタキャンされて寂しいところなの。静かに飲ませてあげな」
すると、答えないあたしの代わりに向かいの席に座る美佐が夏目に説明してくれた。
夏目は「ふぅ~ん」と興味なさげに言っただけで、それからも飲み会は続き、気づけば午前0時。
本当ならばデートするはずだった“明日”がいつの間にか“今日”になっていた。
帰り道。
家の方向が同じ夏目とあたしは、お互いに会話もなく、ただただ駅に向かって歩く。
けれど、かなり飲んだせいであたしの足取りはおぼつかない。
「――あっ」
「…ったく、危ねぇな」
しかも高いヒールの靴を履いていたせいでマンホールの溝に踵が取られ、とっさに手を伸ばした夏目に抱きしめられる形でなんとか難を逃れるハメに…。