樫の木の下で
樫の根元を掘り返していると、落ち葉を踏む音が近づいてきた。
振りむくと、スーツを着たスマートな男が立っていた。
「相変わらずせっかちだなぁ、ちさちゃんは」
彼は、呆れたように言った。
「相変わらず時間にルーズだね」
わたしは、呆れたように返した。
しばらく見つめあい、ほぼ同時に笑った。
二十五年、押しこめられていたらしい想いが、ぶわっと膨れあがる。
この人が好きだったんだなぁと、気づく。気づいても今さらだけど。
ブリキの缶を掘り出して、土を払う。
蓋を取ると、二通の手紙が大人しくおさまっていた。
富永君と顔を見合わせて、照れながら手紙を開く。
『ちさちゃんが好きです。結婚してください』
わたしは数年ぶりに赤面した。
やだ。
わたしはなんて書いたっけ。
そろりと視線をずらすと、富永君も赤面していた。
ま、まさか。
わたしは手紙を覗きこんだ。