隣の彼の恋愛事情
私は意を決して言葉を続けた。

「でも、知ってしまったの」

「何を?」

今まで黙っていたチィ兄が先を促すように聞いてきた。

「斗馬の手を握ったら、『あぁ、これが私が探してた人だったんだ』って」

今まで下を向いていた斗馬が顔を上げて私を見た。

「確かに斗馬に近づくたびに私泣いてばかりだった気がする」

斗馬を見ると、いつもはなかなか見せないすまなさそうな顔をしていた。

「でも、どんなにその手を話そうとしてもダメだった。結子さんの妊娠の話を聞いて、私が斗馬の隣にいると誰かの幸せが壊れると思うと、諦めなきゃって思ってた」

斗馬が切なそうな顔を見せる。

「でも、出来なかった。きっぱり別れられればよかったのに斗馬から拒絶されるのが怖くてずっと避けてた」

「紅緒・・・」

斗馬が手を伸ばして私の握り締めた拳の上に手を重ねた。
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