隣の彼の恋愛事情
「私たちも、すんなり結婚できたわけじゃないのよ・・・今よりも古い時代でしょ。困難は今よりも多かったと思うわ。それでも主人は私の手を離さなかった。私もただの会社員の娘だもの」

昔を思い出すようにお母様が話を続けた。

「私だって苦労したわ。覚えなければいいけないこと、ねたみ、しがらみそれこそ、それまでの生活とは180度かわったから」

お母様の顔を見つめるお父様の顔が申し訳なさそうに一瞬歪んだ。

「でもね、この人と結婚したこと一度だって後悔したことないわ。後ろ盾が望めずに苦労している主人を見ると心が痛んだこと、一度や二度じゃない。でもどんなに辛い時でもいつも私のそばにいてくれた。私も同じように彼のそばにいることで彼の役に立ってる。そう思って今までやってきたの、それはやっぱりお互い愛し合っていないと、困難は乗り越えられないのよ」

お母様がお父様の手をギュッと握り私と斗馬を見つめていった。

「だから、斗馬には自分がそばにいて欲しい人と結婚して欲しいの。それがひいては青山グループをしっかり守ることになるから」

実際に経験してきたお母様の言葉はなによりも重く、そして暖かかった。

「母さん・・・」

斗馬もお母様の言葉に感動したようで、言葉が続かない。

< 320 / 335 >

この作品をシェア

pagetop