椿ノ華
想起



愛を伝える行為なんかじゃない。


響く水音。


軋むベッド。


乱れた吐息。


私の視界を占領するのは、実の兄。


汗ばんだ彼の背中に爪を立てて、
葵の名前を呼ぶ。


それが、彼の望む事だと知っているから。


何処か愛しげに私の名前を呼ぶ彼の声には、少しの切なさが灯り。


熱っぽく潤んだ瞳には、私しか映っていない。


それでも私は、彼を愛していない。


まるで宝物に触れるかの様に頬を撫でる手に、
自分の手を重ねて指を絡めた。







―椿ノ華―



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