椿ノ華
啓一郎の顔が歪んだ。
彼もきっと、心の底から後悔しているのだろう。
「…事業に必要な結婚だったんだ。
啓志には幼少の頃から決まった婚約者が居た。
啓志は私に頭を下げたよ。どうか婚約破棄させてくれってね」
「…だけどそれは出来なかった?」
「ああ。…古くからの取引先でね。断れるはずがなかった」
この人も、悩みに悩んだんだろう。
「啓志は桜さんを諦める様に、すぐに婚約者と結婚した。
子供もすぐに出来たよ」
「…それが私の兄、ですか」
「ああ、腹違いのね…。葵、という名前だ」
「…桜に、葵に、椿、ですか…」
「葵は、啓志がつけた名前だ。
きっと桜さんの事が忘れられなかったんだろうな」