椿ノ華
別れ
「……」
近くに在る壱の顔を見詰めて、するりと頬を撫でる。
穏やかに寝息を立てている、いつもより少し幼い顔。
「…ごめんなさい…」
小さく呟いた。
涙を流しそうになるけれど、
堪えて壱の暖かい腕から頭を上げる。
ベッドから抜け出て投げ捨ててあった下着を身に付け、
置いてあった着物を羽織り、帯を結んだ。
「…ありがとう。愛してる、壱…」
色々な思いを込めた、短い言葉。
眠っている壱の唇に優しく口付け、さらりと髪を撫でた。
まだ少し、寂しいけれど。
一緒に何処かに逃げる事が出来たら、
なんて思ってしまうけれど。
この人を傷付けてはいけない。
抱かれた事で、離れる覚悟が出来た。