椿ノ華



「ご入浴のご用意が出来ておりますが…

お食事を先になされますか?」

「いえ…先に入ります」

「かしこまりました」


一礼するメイドに背中を向けて、浴室に入る。

シャワーで体を洗い流しても、
心のなかで燻っているものは流れない。


「……」


浴槽に入り、何となく天を仰ぐ。


「…壱さん…」

迎えに来てくれるって、言ってた。

「…愛してる…」


「信じて待ってる」とは、言えなかったけれど。

本当に抱き締めて欲しい人に抱き締めて貰えない体を、自分で抱き締めた。



< 175 / 243 >

この作品をシェア

pagetop