椿ノ華



「…でも」


こくん、と口の中の物を飲み込んだ時。


「今咲いてしまったって事は、

他の桜が満開になる頃には散ってしまうのね」

「そうですね」

「…勿体無いわ」

綺麗なのに…

「…美しいものは周りを惑わせ、そして早くに散る。

そういうものです、奥様」


そう言った紫野の笑顔が、何だか怖かった。



―・・・



「桜?」

「ええ、狂い咲きだそうで。

離れの方の桜が咲き始めているんです」

「そうか」

「お時間がありましたら、見に行ってみてくださいね」

「ああ」



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