椿ノ華
「解放、だなんて…」
「椿」
「…はい」
「お前は、覚えているだろうか。
…いや、いないのだろうな」
「…何をです?」
「小さい頃…俺とお前は、会った事がある」
「…え?」
「俺の、母親の葬式の日だ。お前が庭に迷い込んだ」
「……」
「父親だけでなく、母親も。
両親を亡くし、あの薔薇の庭で、隠れて泣いていた俺を見付けた。
…優しく手を握って微笑んでくれたお前が、愛しかった。
あの日からずっと、俺は…お前だけを想って、生きてきたんだ」