椿ノ華



優しく微笑んで、愛しげに椿を見詰め乍紡がれる言葉。


「だから…妹としてお前が屋敷に来た時、本当に驚いた。

祖父さんが「お前の妹を連れてくる」と言うから、

どんな女か見ようと階段の所に居たら、

ずっと会いたかったお前が居るのだから」

「……」


そんな。

そんな事が、あったなんて。

自分が覚えていない程の出来事が、
彼にとって救いになる程だったなんて。

彼は、一体どれだけの苦しみを、葛藤を抱いて、
自分の傍に居たのだろう。

それらを想像して、言葉が出なかった。


「…なのに、妹だなんて。

やっと会えたのに、ずっと想っていたのに…」



< 219 / 243 >

この作品をシェア

pagetop