椿ノ華



「ああ、失礼。

僕は成瀬川 壱(なるせがわ いち)だよ」

…成瀬川?

「…成瀬川ホテルの、当主様ですか?」

「はは、まあ…肩書き的にはね」


彼は苦笑した。


「申し訳ありません…!

私、兄に着いて来てはいますが、まだ知らない方が多くて…」

「いや、いいよ。

まだ継いだばかりだから、知らない人がいても仕方ない。

僕もたくさん挨拶しなきゃいけなくて疲れたんだ」


ふわりと、柔らかい笑みを浮かべる彼。

葵とは正反対の人だと思った。

負けず劣らずの美しい顔立ちだが、
彼は絶えず薄い笑みを浮かべているし、物腰も柔らかい。

優しい彼の性格が、雰囲気に滲み出ていた。



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