椿ノ華



啓一郎は紅茶を一口飲み、溜め息を吐き、
そしてゆっくりと語り始めた。


「…桜(さくら)さんと啓志(けいじ)の出会いは、この屋敷。

桜さんがまだ19の時、この屋敷で使用人として働き始めた」


桜は母の名前だ。

啓志は、父親の名前という事だろうか。


「桜さんは、今の君とそっくりで、とても綺麗な女性だったよ。

見た目も内面も、ね。

啓志が桜さんに心を奪われるのに時間は掛からなかった」


啓一郎は、懐かしげに椿を見詰めた。


「桜さんもまた、啓志に惹かれた。

父親の私が言うのも何だが、誠実で優しい男だったよ。

二人は心の底から相手を想い合っていたのに、

私にはそれが分かっていたのに、分かっていて、

二人を引き離したんだ」



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