古城の姫君
 あたりは静まりかえり、木の枝が風でざわざわと音と立てています。

 ふと、クロークスはその木に咲いていた黄色い花に目をとめました。

「あの花はなんていうの?」
 
 と、黄色い花を指差してカルミアにたずねました。

「蝋梅(ろうばい)です。ロウソクのロウみたいでしょう。甘くていい匂いがするんですよ」

「あのピンク色と白いのは?」

「あれは紅梅と白梅です。あともう少ししたら、桜が咲きます」

「さくら?」

「桜を知らないんですか?」

 ラティスフォリアには桜だけでなく、蝋梅も紅梅も白梅もありません。

 だからクロークスは生まれて初めて、それらの花を見たのです。
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