古城の姫君
 マリーベル王国の国王のひとり娘、リリィ・アンジェリークは、召し使いの一人、カルミア・デュオンに連れられ、城の奥にあるリリィの部屋に入りました。
 
 でも、ここにも兵士が入ってくるのは時間の問題です。

 リリィは、昨日の夜父親に言われたことを思いだしていました。

「この国はもう、滅びる運命にある」
 国王は窓の外を見ながら言いました。

「おまえは逃げなさい。これは父親として言ってるんじゃない、国王としての命令だ」
 そう言って振り返ると、国王はリリィの目を真剣な眼差しで見つめました。

「この城には逃亡するための地下通路がある。出入り口はおまえの部屋の箪笥(たんす)の下にあるから、そこから逃げなさい」

「私だけ逃げろって言うの?」
 父親の言葉を黙って聞いていたリリィが、動揺した顔で口を開きました。

「そういうことだ」
 それは父親として、家族を守るための悲壮な決断でした。
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