古城の姫君
「カルミアも早く逃げてよ」

「大丈夫です。あとから行きますから」

 ほんの少しの間、リリィは自分が降りてきた出入り口を見つめていましたが、やがて暗闇に一歩足を踏み出し、壁に手をつきながら歩きだしました。
 リリィはカルミアを思い、胸を痛めました。

 それを見送ったカルミアは、リリィが見えなくなると、出入り口の戸を閉め、箪笥を押して元の位置に戻しました。

 カルミアは、自分より王女であるリリィのほうが、死んではならない、生きのびなければならない命だと考え、リリィを逃がすための時間かせぎをする、と決めました。

 部屋に残ったカルミアは、窓際に立ち、やがて訪れるその瞬間――自分の死を思い、無表情になりました。

 だんだんと足音が近づいてきます。兵士たちの足音です。

 ガシャガシャ、と扉を壊そうとする音が聞こえてきました。
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