明日ここにいる君へ
そりゃそうでしょう。
今、話題の中心になっていた当の本人·登坂悠仁と……、貧弱体型の私·櫻井七世が…。
睨めっこしているのだから。
「ゆ…悠仁くん?」
シンがようやっと言葉を絞り出した辺りで……。
「う〜ん。貧弱っていうより、痩せすぎ?」
悠仁はズバっとそう言い放ち…
何事もなかったかのように、教室へと入ってきた。
「……登坂っ!」
「あれ?声掛けないんじゃなかったの?」
「…………。」
……そうだった。
つい。
「ホラ、眉間。」
悠仁は自身の眉間にちょんちょん、と触れて。その指で…私の方を指す。
「……………!!」
「………。怒りっぽいの克服する?コレ、あげよっか?乳製品だしCa少しは入ってるかもよ?」
「…………。」
「…はい、ドーゾ。」
何も言えずにいる私に……、
奴は自分が飲んでいたコーヒーカップを…目の前に差し出した。
ど……、
どうリアクションすれば……?
これは100%楽しんでる……!
奴を…罵る?
いやいや、クラスの皆さんが見ている前で、それは……。
どうしたら印象良くあしらえる…?
なにせ、相手が悪すぎる……!
「…いただきます」
私は努めてにこやかに応じると、ぐいっと一口飲んでみせた。
「…あれ。コレ、美味しい」
カフェオレ…かと思っていたが、全くそうではない。
「でしょ〜。さっきの休み時間にテイクアウトしてきた。期間限定フレーバー」
「美味しいけど、…何味っていえばいいか」
「当ててみて」
「…もう一口いい?」
「どーぞ?」
もう一口…飲んでみる。
「口に何か入った!…クッキーみたいな…?」
「お。いい勘してる。さ〜、何味でしょう?すぐわかると思うけど」
「………。……?」
コーヒーだと思いこんでいたその先入観が邪魔をする。けど、好きな味。美味しい味。
「別に…当てなくてもいいじゃない。ごちそうさま、美味しかった。」
私はカップを悠仁へと押し返す。
「思ったことそのまま言えばいいのにね」
「え?」
「いえいえ。何でもございません」
すると悠仁は…ぎゅっと目を瞑って。戻ってきたそのドリンクを一口飲んだ。
「……そっか。何も見ないで、何も知らないで飲むと案外わからないかも?…ごめんね、櫻井ならわかるかな〜?って思ったんだよね」
顔を真っ赤にしているのは、女子のみなさんと…、きっと、私も。
ケロっとしているのは悠仁様だけ。
その無自覚な行動、なんとかなりませんか。
意識してるのは私だけ?
「ストップ!悠仁、さすがにやり過ぎ」
その時…、このやりきれない場をとりもってくれたのは常盤くんだった。
「…ごめんね、櫻井。撤収します」
常盤くんはそう言って…、彼を窓際の席の方へと引っ張っていった。