明日ここにいる君へ
昇降口前。
私は悠仁が先に中へ入るのを見計らって…
なんとなく、ゆっくりと…足を踏み入れる。
のろのろとスニーカーを脱いだ所で、
『パン!』と背後から、小気味よい音が響いてきた。
条件反射で思わず振り返ってみると……
床に落とされた悠仁の内履きが、不格好に横たわっていた。
「………。」
何か…怒ってる?
恐る恐る顔を上げると、私をじっと見下ろす悠仁の視線と…ぶつかった。
「……な、なに……?」
「……別に。」
その目…!何でもないって顔じゃあないじゃない。
「言いたいことがあるならハッキリ言ってよ。…心証悪い。」
意思疎通は極めて難しいと悟ったから…
直球勝負で挑もう。
もう遠慮は……しない。
「…ん。じゃあ言わせて貰う。『近くにいたい。もっともっと仲良くなりたい。』……そう言ったのアンタだよね。」
「うん。それが?」
そんなこっぱずかしい台詞を…蒸し返すなよ。
「登校時間が同じなんだから、誰と出くわしたっておかしくないだろ?てか、今までだってアンタとここで会ったことは何度もある。」
「…………。」
「わざわざ時間差で入ってくる意味はなに?」
「………。……?……別に、何となく。」
「ああ、そう。ならいーけど。今更何を気にしてんのかと思って。」
「…………!そっか。……かわいいね、登坂。」
思わずついて出た言葉に。
私は慌てて…口を塞ぐ。
けど……、
アンタはいつだってストレートに気持ちをぶつけてくるから、
私にもそれが伝染しちゃっただけ。
「……かわいいとか初めて言われたんだけど。」
「だって、気にしてるのは登坂の方じゃない?ただなんとなく…つい、とった行動なんだけどな。…不覚にもかわいいだなんて思ってしまった。」
「……。かわいい系のがアンタの好み?」
「は?」
なぜそうなる。
「じゃーこういうのは?……『櫻井と一緒に教室に行きたい。』」
「…………。かわいくない。そして却下。」
「は?何でだよ。」
「何を企んでるんだか……。」
「……そうきたか。でもまあ…、上手くかわせるじゃん。そーゆー男がいても大丈夫そうだな。」
「……はあ?」