明日ここにいる君へ
みんなそれぞれ席に戻って、HRが始まるギリギリの所で……
シンが教室に飛び込んできた。
「ヤバかったわ~。ぎりぎりセーフ!」
シンはいつもと何ら変わらずに、私へと声を掛けてきた。
「…おはよう。シン、すごい汗。」
額に…汗の粒がじんわりと滲み出ている。
「うっそ、化粧落ちるじゃん。」
彼女はポケットからハンカチを取り出して…それを懸命に拭う。
「…あ、七世。後でエーゴ教えて?課題の訳解らない所けっこーあって…。」
「……うん。」
言葉を投げかけながらも、シンは一向にこっちを見なかった。
いつもの口調。
いつもの笑顔。
なのに……逸らされている視線。
「……ねえ、シン。」
「ん~?……ああっ、ファンデが付いちゃったしっ。」
視線は…ハンカチへ。
「シン。」
「…何~?」
今度は…化粧ポーチへ。
「……シン!」
ガチャガチャと化粧品を漁るその手が…ピタリと止まった。
「……だから、何~?」
彼女の声は、怒っているでもなく、面倒臭さそうにする訳でもなく、
ただ……
あくまでおどけているような口調で。
私を……決して邪険にすることはなかった。
「……私に…何か聞きたいことがあるんじゃないの?」
……馬鹿な私。
どこまでシンの優しさに甘えているのか…。
私の方が、言いたいことがあるのだというのに。
いつの間にか身についた少し上から目線のこの態度に…。
この時初めて、気づいてしまった。
「………。聞きたいこと?あるある、だから…英語。」
「……そうじゃなくて。」
「……他に…何があるって言うの?」
「……え……と…。」
言葉に…詰まる。
シンはまた手を動かしながら、静かに口を開く。
「……聞いてもきっと七世ははぐらかすでしょう?」
「……そんなこと…ない。」
ねえ…、シン。
こっちを見てよ…。
「またまたぁ~。いいって別に無理しなくても。」
「無理って…。」
「……私、事なかれ主義。楽しければ、それでいい。…アンタに教わったことかな。」
「……え?」