明日ここにいる君へ






みんなそれぞれ席に戻って、HRが始まるギリギリの所で……



シンが教室に飛び込んできた。





「ヤバかったわ~。ぎりぎりセーフ!」



シンはいつもと何ら変わらずに、私へと声を掛けてきた。




「…おはよう。シン、すごい汗。」


額に…汗の粒がじんわりと滲み出ている。



「うっそ、化粧落ちるじゃん。」


彼女はポケットからハンカチを取り出して…それを懸命に拭う。




「…あ、七世。後でエーゴ教えて?課題の訳解らない所けっこーあって…。」



「……うん。」



言葉を投げかけながらも、シンは一向にこっちを見なかった。


いつもの口調。
いつもの笑顔。

なのに……逸らされている視線。




「……ねえ、シン。」



「ん~?……ああっ、ファンデが付いちゃったしっ。」


視線は…ハンカチへ。



「シン。」



「…何~?」



今度は…化粧ポーチへ。



「……シン!」



ガチャガチャと化粧品を漁るその手が…ピタリと止まった。



「……だから、何~?」



彼女の声は、怒っているでもなく、面倒臭さそうにする訳でもなく、


ただ……


あくまでおどけているような口調で。



私を……決して邪険にすることはなかった。




「……私に…何か聞きたいことがあるんじゃないの?」



……馬鹿な私。


どこまでシンの優しさに甘えているのか…。
私の方が、言いたいことがあるのだというのに。


いつの間にか身についた少し上から目線のこの態度に…。



この時初めて、気づいてしまった。








「………。聞きたいこと?あるある、だから…英語。」


「……そうじゃなくて。」


「……他に…何があるって言うの?」



「……え……と…。」


言葉に…詰まる。




シンはまた手を動かしながら、静かに口を開く。



「……聞いてもきっと七世ははぐらかすでしょう?」



「……そんなこと…ない。」



ねえ…、シン。


こっちを見てよ…。



「またまたぁ~。いいって別に無理しなくても。」



「無理って…。」



「……私、事なかれ主義。楽しければ、それでいい。…アンタに教わったことかな。」



「……え?」


< 141 / 285 >

この作品をシェア

pagetop