明日ここにいる君へ
つい…、『パクリ』と口に入れる。
「………指まで食うな。照れんじゃん。」
「…………?!」
なんてこと。
一生の…恥!
顔が次第に熱くなっていくのを感じながら、私はわざと視線を落とす。
「…あ、アンタのお弁当って彩り綺麗だよね。おいしそー!」
ついでに…話題の転換を試みる。
「そう?食ってみる?」
「えっ。いやいや、催促した訳では…。アンタのお母さんて料理上手なんだなあって思っただけ。」
「…………。これ、俺が作ったんだけど。」
「………。え!」
今…、何と?
「ちょっと待って。アンタもしや毎日自分で?」
「うん、そう。」
「……へぇー…、偉いね。」
私は改めて悠仁の弁当をのぞきこむ。
卵焼き…
から揚げ…
アスパラのベーコン巻き…
おひたし、プチトマト、ひじき煮…。
「…昨日のおかずの残り物もあるし、別に大したものは入ってねーよ?」
「……十分立派だよ。私なんて料理もできないし。」
「へぇ、意外。」
「あ。でもカレーなら。」
「…十分じゃん。」
「けどアンタと比べたら……。」
「…………。そういう状況になれば、嫌でも作れるようになる。」
「……………。」
「…七世のそれも、自分で作ったの?」
悠仁が私の手元のおにぎりを指差す。
「なんでわかったの?」
「デカくていびつだから。」
「し、失礼な。」
「嘘、ジョーダン。嬉しそうに食べるから…うまそう。」
「…あ、愛情こめてますから。」
「ふ~ん。」
「「……………。」」
変な沈黙が……流れる。
さっきまで流暢であった会話のやりとりが途切れて。
途端に…周囲の話し声が聞こえるようになってきた。
ザワザワ
ザワザワ……
『悠仁くんと……』
『櫻井七世ってさ……』
「……………。」
全身に……視線を感じる。
もしかしてずっと…見られてた?
「………別に誰が誰とメシ食ったっていいだろっての。」
悠仁は箸を置くと……
「ごちそうさま。」
そう言って。
まだおかずが沢山残っている弁当の蓋を…閉めた。