明日ここにいる君へ
「………そっか。それは…悠仁も惑わされるワケだ。」
「…………。」
「少し…、余裕がないかなって思ってた。きっと今までのアイツなら……そろそろ逃げ出しそうなトコなのに…偉く守りに入ったかと思えば、なる程。」
「………?常盤くん…?」
HRの始まりを告げる鐘が…、
誰もいない廊下へと、響き渡った。
「…そうまでして一緒にいたいなら、いっそ気持ちぶつけてくれればいいのに……。傷ついた櫻井を癒そうだなんて、よこしまな考えじゃあ…簡単じゃなかったな。」
「………え?」
「親友だからこそ…、崩せるかと思った。なのに…引き下がらないんだな。」
「……………?」
「俺も…、迂闊だったかな。まさか、本気になるだなんて…自分でも思わなかった。」
「……え……?」
常盤くんは、そう言って。
私の両腕を…掴んだ。
「……な…に…?」
振りほどこうにも、男の人の力になど…
敵うハズもなくて。
辛うじて…反らした顔。
その頬へと……
彼の唇が…触れる。
「……ごめん。」
するりと……
手を離して。
申し訳なさそうに…目を伏せる彼を …
私は…、責めることはできなかった。
彼に触れられた場所は、じわりと熱を帯びて。
けれど……時間とともに、その感覚も…消えていく。
悠仁とは…、違う。
だって、
彼がいないこの時も……
君のあの手の温もりを、思い出すことが…できるのだから。
「ごめんなさい…。」
手の甲を、目にあてて。
常盤くんに…頭を下げる。
「………なんで…、なんで櫻井が…謝るの?」
「………ごめんなさい。」
「告白もさせてもらえないの?」
「…………。ちが…」
何で…謝るのか?
好きだと言われたわけではない。
だけど、真剣な瞳が……訴えかける。
切ないくらいに。
『好きだ』って。
でなければ……、私にこんなことする訳はない。
親友の、彼女かもしれないって…思っていたのなら。
彼が誠実な人であることは…分かっていたから。
「もう…、しないから。……多分、ね。」
「……多分…?」
「ん、絶対とは言わない。だって、悠仁がどうでるか…分からないし。」
「………!言うの…、悠仁に。」
「さあ…、ただ、言ったら何かが変わるかもよ?」
挑戦的な…瞳。
その奥に……、
悠仁の瞳とが…重なって見えた。