明日ここにいる君へ


悠仁が、学校に来なくなって…2日目。


私はやっぱり…ギリギリまで彼を待って。それから――…学校へと向かった。


昇降口でまた、常盤くんに…会った。


「……おはよう。」


まるで。何事もなかったかのように…互いに挨拶を交わす。


「今日も…、来ないみたいだね。」


「……そうだね。」


「…昨日、櫻井が心配してるって…ライン送っといたよ。」


「……そう。」


「……それだけ?」


「何が?」

「返事来たかとか、どういう反応だったとか…。……普通そこ、気にしない?」


私の隣に並んで歩きながら、常盤くんは意地悪く…聞いてくる。


「悠仁は、人を介して言葉を返そうだなんて…しない。もし、私に言いたいことがあるなら…直接、言ってくる。」


一昨日…、君は言っていた。

告白の返事だって、ちゃんと顔を見て…話したい、と。


「……。……手強いね、櫻井。」


「ディフェンダーですから。」


「……は?」


「悠仁の…ウケウリ。」



また、あきれさせてしまうかも…しれないけれど、悠仁、アンタの世界を…またひとつ、勉強したよ。

守りに入らないと、
一気に…何かが崩れていきそうだから、気を張って、隙を…作らないように。



「もしかして俺、警戒されてる?」


「当たり前じゃない。」


「……ふーん。でも、考えようによったら、視野に入ってるって…ことだよね。」


「……え。」


「ギャラリーと、オフェンスに対する意識の違いってヤツ。観客には…いいとこばっか見せようとするもんだろ?けど、同じコート内にいるヤツには…そんな悠長に対応してらんない。多少のラフプレイしてでも、勝ちたい。つまり…、櫻井の本性が見れる範囲内に、居れてるってことだろ?」


「……………。随分…前向きな考えだね。」


「悠仁の、影響だね。」



可笑しいね、矛盾…している。

ここに、君は居ないのに、君の存在の大きさを…互いの言葉を介して感じるだなんて。






「……なんか、納得いかないなー。」


常盤くんは、ふうー…、と大きく息をついて。



少し早足で…前を歩くと。突然、大袈裟なくらいに…ぐるんと勢いよく、こちらへと振り返った。


「……櫻井。ライン、教えて。」


「え。」


「おかしいことじゃないでしょ?クラスメートだし。」


「……………そうだけど――…。」


「どうやって相手を出し抜くかは…、人それぞれ。アイツがそれを怠っただけ。」


「……………。」


「……ダメ?」


「……。……断る理由なんて…ないでしょ?」


「ん。ってか、櫻井だけだし、クラスのヤツで連絡先知らないの。」


「………え?そうなの?」



「………。うっそー。一瞬、本気にしたでしょ。それって、案外…気にしてるからじゃない?」



「…………!」


「なーんて、ね。ホントは聞きたかったけど聞けなかったってだけ。それが俺だけとも…限らないけどね?」






私のスマホに…


常盤くんの名前が刻まれる。



「櫻井。悠仁が気になるなら…、俺を利用したっていいんだよ。人って、人を介さないと…案外臆病なもんでさ、みんな回り道しながら…生きてるんだと思うんだよね。その人を知りたいなら、まずは…周りを知ってみないと。櫻井がバスケに興味持ったのも結局…そういうことだろ?」






常盤くんの言葉は…、


正論だったのだと…思う。



言い返す言葉を、持ち合わせてなど……いなかった。







「…………。」






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