明日ここにいる君へ
悠仁が居なくなって…3日目。
学校の体育館――…。
体育の授業は、皮肉にも…バスケ。
幾重にも重なって聞こえる…、床を弾くボールの音に。私は、耳を傾ける。
リズムを打つような…、小気味の良い音は。
そこには――…なかった。
パス練習を行う為に、先生がペアを組むようにと…指示を出す。
奇数の女子は、どうしても一人余ってしまうから、近くにいる子2人と、私とで、さっさと3人組を作った。
――…が、
「櫻井ー、悠仁居ない分、こっちも一人余るから…一緒にしない?」
どう言った気回しだろうか…、こともあろうに、公衆の面前で、常盤くんが私へと…誘いかけて来た。
「……えっと…。」
断る理由を探したけれど……、
皆の手前、そんな意地の悪い決断などできる訳もなくて、「手加減するから大丈夫。」なんて―…、悪びれもなく笑顔を作るから、
「こっちは手加減しないよ?」って、おどけて見せる…始末。
結局、二人向かい合って――…
ボールの行き来が、スタートした。
「……常盤くんさー…、」
「んー、なにー?」
何で私を?……て、聞こうとして…。
「何でもない。」
……辞めておいた。
単純に、悠仁が居ないからって…、彼なら、そう答えるんじゃないかと―…思ったから。
それに、そう言われたとて、私は上手い返答を持ち合わせてなど…いない分だけ。
分が悪い。
その間にも、ボールは真っ直ぐに私の胸元へと何度も飛んで来て…、
掴み取る掌が、じんじんと痛んで来た。
「上手いじゃん、櫻井。」
「それは、そっちが手加減してるからでしょう?」
「んー…、まあね。」
的確な場所に送られて来るから、正面で捕えることは、そう―…難しくはない。
この相手が悠仁ならば、きっと…、少し意地悪して。ボールを弾いた私に、
「下手くそ」だなんて、眉を下げては―…笑うんだろう。
今度は、ワンバウンドさせての…、パス。
「結構難しいね。」
私が放ったボールは、変な回転軸になっているのか――…、
ボールがフロアに突く瞬間に、その、軌道を…狂わせる。
「そう?コツを掴むと、案外簡単だよ。」
一方の常盤くんは―…。
やっぱり正確に、返して来る。
「櫻井っ!」
常盤くんが…私の名前を呼ぶ。
「なにー?」
「後ろ!」
「……えっ!」
反射的に体を翻して、後ろへと…振り返る。
すると……。
ワンバウンドしたボールは、力なく私の膝元へと…ぶつかってきた。
「…………。今の…、なに?」
「…うん。隙を、狙ってみた。ディフェンスを怠っちゃあダメじゃん。」
「今のは…、卑怯でしょー。」
「いーや、気を抜かなきゃあ、ノールックでも取れるのがバスケットマン。」
「………。……目指してないし!」