明日ここにいる君へ
シンと、もう一人が…、エンドライン側に。
私は一人、センターラインの手前に立って、パスを繰り出す。
それから――…、彼等は、一番端のサイドラインをちょうど跨いだ位置で、速い球を…行き来させていた。
エンドライン側にいる悠仁の姿は…、例え離れていても。私は、どうしても…視界のほんの端で、捉えてしまうのだった。
さっきとは打って変わって、常盤くんの球は―…速く、それから…、強く。容赦がない。
一方で――…
私の球は、何度もシンの手を弾いて。とうとう「ノーコン」呼ばわりされてしまう。
どうやら常盤くんは――…、本当に私のやり易いようにしてくれていたらしい。
「もー…、どこに投げてんのー!」
「……あ…。」
コントロールを失ったボールは、シンのいる後ろの壁に跳ね返って。彼女がそれを取るのに…身を屈めた時だった。
「…………!」
突如私の視界に――…勢い良く飛び込んで来る物体が…!
つい反射的に。
胸の前で…、しっかと、その物体…、バスケットボールを捕らえると。
それを放った男…、悠仁は。
呑気にも…手を叩いて、
「さすがはバスケのガリ勉!今のは…、ノールック?」
なんて…
真面目な顔して、問い掛けて来た。
さっきの常盤くんとの会話を…聞いていたのだろう。
意地悪な…質問だ。
「………そんなワケ、ないじゃん。」
どこかでアンタを見ていなくちゃあ…、こんな反射的に…反応できないでしょう?
「……ふーん、そう。」
君は…、一体それを。どう捉えたのか――…。
わざわざ私の方に歩み寄って来ると、手元からボールを奪う瞬間に…
「手紙…読んだ。ナニあのしわくちゃの紙。名前も書いてないし。気づかなかったらどうしてたんだよ。お前…、アホ。でもって、バカ。」って、耳元で小さく呟いた。
君の吐息が触れて…
くすぐったくて、つい――…手で耳を覆った。
「バカって何よ…。人がどれだけ心配したと…」
「……感じちゃった?」
「……………?!」
「七世のかわいーとこ、また発見。」
「……なに言って…」
「名場面に手紙挟んじゃって・・・。嫌でもバスケしたくなるじゃん。帰りたく・・・なるじゃん」
また、エンドライン側へと…悠仁は歩いていって。
くるり、と振り返ると……
「言っとくけど。…社交辞令じゃねーよ?だって、お前、俺いないと…ダメなんじゃん?」
そんな台詞を…恥じらうことなく、堂々と…言ってのけた。
周囲がどよめく中で…
私は、フロアに立っているのが精一杯で。
顔から蒸気が上がって、ふわふわとした感覚に…見舞われていた。