明日ここにいる君へ


夢の舞台は…


大きな病院。


大人達に囲まれた…病室。




その……一角。

私はベッドに座って、備え付けのテーブルの上で…絵を描いていた。





「……ねえ、何描いてんの?」


隣りのベッドから…声がして。



仕切りになっているカーテンが……開かれた。



そこには…、一人の、男の子。



「……えーと、ナナが悪者をやっつけてる所!」


自由が帳を彼の方へと向けて。私は、意気揚々と……語りかけていた。



「これがね、ナナの頭の中にいる悪者。それで、こっちが…ナナ!」


「そのナナちゃん、何でスカートなの?いつもパジャマ着てるじゃん。」


「……可愛いでしょ?おばーちゃんがねー、作ってくれたの。お家に帰ったら履くんだー。」


「……ふーん。ねえ、どーして悪者に足があるの?」

「………?」


「悪者って、石みたいのなんだってじーちゃん言ってた。だから、足なんてないし…、それに、ナナちゃんの頭にいるのは悪者じゃないって。」


「………?だって…、おばーちゃんは悪いヤツだって。こうやっていっぱい絵を描いてやっつけると…相手は弱ってくるんだって……。」




私が入院したのは…、頭に腫瘍が出来たからだったと、後に…母から聞いた。

初めての…入院。



大好きな幼稚園を休まなきゃいけないことが…すごくすごく嫌だった覚えが――…ある。




良性の、脳腫瘍。


あるときから頭痛が始まって、

それから、お母さん曰く…視界が狭くなっていったらしい。

物につまづいたり、転んだりすることが…増えていた。



頭に悪者がいて、それを寝ている間に取るんだって…当時は聞いていた。




「じいちゃんは、薬とレーザービームが効くって言ってたよ。」


「レーザービーム?!ウルト〇マンみたいだね。どーいうの?見てみたい!」



「まだしたことないからわかんないけど……こーゆーのじゃない?」


その、男の子は……ベッドから立ち上がってこっちへと来ると。


クーピーで、「ナナ」の手から…悪者へと、黄色の稲妻みたいな線を…書き加えた。


「……かっこいいね!これ、すごく強そう!」



「そう?」


「うん。早くレーザービーム出来るといいね。」


「……うん。ねえ、俺にも紙1枚ちょうだい。」



「いいよー、きみなりくんも描くの?」


そう、あの子の名前は…


きみなりくん。



「うん。」


「黄緑つかうー?」


「何で?青がいい。」


「名前、そっくりだもん。」


「………。きみなりだってば。黄緑とは全然違うんだぞ?」


「………ふーん…?ナナはねえ、『なないろ』のナナなんだよー。」



「……へえー。」


「おばーちゃんがつけてくれたんだって。……きみどりくんの名前は?」


「『きみなり』!俺のは…じいちゃんが考えてくれたんだって。」



「ふうーん、何でもおじいちゃんなんだねえ、きみどりくんは。」


「………。……ナナちゃんだってばーちゃんばかりじゃん。」










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