明日ここにいる君へ
私が退院して、まもなく――…
私は、きみなりくんに手紙を書いていた。
きみなりくんもまた、長い病院生活を終えて…
退院した、と知ったから。
近所のポストへと…投函しに、おばあちゃんが付き合ってくれた。
その日は…雨が降っていて。
手紙をぎゅっと胸に抱くようにしながら…それが濡れないようにと、おばあちゃんが挿す傘の中で…身を縮こませながら、歩いた。
少しだけ…背伸びして。
赤いポストへと……手紙を入れると。
「お返事が楽しみだねえ?」って、おばあちゃんがふんわりと優しい笑顔で言ってくれた。
もう、空からは…一滴の雫も落ちては来なかった。
ただ、分厚い雲が…頭上を支配していて。
それから、どんよりと……黒く渦巻くものが。
彼女の上を…浮遊していた。
きみなりくんからは……すぐに返事が届いた。
毎日、郵便受けに…手紙が届いていないかと、確認して…数日。
届いたそれに、心踊らせながら……
家の中へと戻った。
最初に報告に向かったのは…
おばあちゃんの居る所。
おばあちゃんは、朝……縁側に腰をかけて。のんびりと庭の景色を眺めるのが……日課だった。
私は…廊下をバタバタとはしって、彼女の姿を見掛けるなり、
「きみなりくんからお手紙来たよ!」って――…、その手紙を、目の前に翳した。
「良かったねえ。」
いつもと同じ……
穏やかな笑顔だった。
なのに。
やっぱり……おばあちゃんの頭の上には、アレが……より一層濃くなって。相変わらず…そこにあった。
「……おばあちゃん。」
「なあに?」
「ねえ、どうしておばあちゃんの頭の上に……黒いものがあるの?……ずっとだよ?」
返事は……なかった。
代わりに、ひとつ、小さく…微笑んで。
しわしわの小さな手で。
何度も何度も…私を撫でて。
それから、ぎゅと……抱き締めてくれた。