明日ここにいる君へ
フローリングに敷き詰めるかのよに…
私は、自分の描いた絵、1枚1枚を…丁寧に並べていく。
きっと……きみなりくんと過ごした日々は。人生の…ほんの一部で。
共有するものも…ほんの、一握りしかないはずなのに。
どうしてだろう。この頃の私は…すっかり彼の色に染まっている。
悠仁との出会いが、私の人生の…大きな結び目だったとしたならば――…。
きみなりくんとの出会いもまた…、小さいながらも、懸命に結わいた……縁なのかもしれない。
心の奥底でずっと眠っていた…淡い記憶。
おばあちゃんの死と関連付けて、蓋をしてしまった…悲しい記憶。
小さな、小さな……恋の記憶。
不意に、部屋の戸が……、トントン、とノックされる。
「――……お母さん?」
「………………。」
ドアの向こう側には…、確かに人の気配がするのに。返事は……なかった。
「………俺。」
………『おれ』?
って、あれ……?
「今、この家から出てきた、七世のおかーさんと名乗る人に…ラチられた。」
……ちょっと待ってよ…、この声…!
「家から出てきたなら、お母さんに間違いないでしょう?丁度出勤時間だし。それに、ラチられたなんて…人聞き悪い。周辺うろついてる不審者を捕獲したってだけじゃない?」
「アホ。どっちにしろ、俺、立場ないじゃん。」
何…してんのよ、………馬鹿。
本当に…来るだなんて。
それに、まさか……こんな近くに来ちゃうなんて。
「不法侵入だよ、……悠仁。」
「………。うん。でも、これ以上は入り込まないから…安心していいよ。」
「当たり前。部屋、散らかってるし…。」
顔が……、見たくなるじゃない。
「って、そこかよ。つーか、これから病院いく奴が、よりにもよって病人に近づける訳…ないだろ?」
「今さら…。学校まで行って、散々近づいて、挙げ句私に移したの…誰よ。」
……そうだよ……、壁1枚隔てたこの距離が…
もどかしいよ。
「お前は…いつもこうだよな。ヒトがああ言えば、こう言う。」
「……………。」
「もっと全力で拒否しないと…。俺なら今の七世の言葉、都合よく解釈するよ?『今更気にしてどうすんの』って言われたみたいだ。それに――…、な?近づいて来たのは…お前の方だろ?これ以上はヤバいって…、そう思ったから早退したのに。人ん家に…俺の領域にズカズカと入って来るし、よりにもよって、へとへとになったカッコわりー姿見られるし。…あいこ…だろ。」
「……………。」
「………約束通り…、会いに来た。」
「………うん。」
「正直に言うけど。会いたいから…、来た。アンタだって、そんくらい…もう分かるだろ。客観視するのが得意だもんなあ?」
「……………。」
「主観的に見れないのが残念だけどな?」
「…………うん。」
「なあ。七世は俺に…、会いたくなかった?」