明日ここにいる君へ
君が……、ここにいる。
この、たった1枚の壁が…もどかしいとさえ思う。
「………会いたいよ、ホントは。悠仁の顔が…見たい。」
「…………。だと…思った。」
ドアが…僅かに開く。
「……悠…仁?」
けれど、君が入って来ることは…なくて。
代わりに、君の大きな手が――…筋ばったその手が。
こっちにおいで、といわんばかりに…手招きしていた。
私は、ドアに歩み寄って…、
「……何?」って声を小さく…問いかけた。
「うん。ドアでもぶち壊してでも突破すればカッコいいけどさ―…、それじゃあ不平等かなって。」
「…………?壊す必要があるの?」
「アンタは…、本当わかってない。」
「……なら、解るように言って。」
「俺ばっか壁取っ払っても仕方ねーんだよ。何度も仕掛けて来たのに、先に行こうとすると、またそこに…壁ができてる。いつになったら、内側に…入り込めるんだろうって。」
「……つまり?」
「アンタが、証明してよ。できるんだって…、俺に教えて。」
「………………。」
「俺に会いたいなら、そうして…みろよ。」
ドアに掛かった…君の手。
1枚壁の内側に…入り込んでいるのは、指先だけ。
トントン、と音を鳴らして…
今度はまるで「捕まえてみろよ」って…挑発してる。
私が…どうしたいのか。
確実に、試されているのだ。
私はゆっくりと…手を伸ばして、君の手に触れるその前に、躊躇する。
「…………。時間切れ~。」
その手をひらつかせて、「シッシッ」って追い払うような動作をすると。
君の手…もろとも、僅かに開いていた隙間が…閉ざされてしまった。
「……悠仁!」
咄嗟に、ドアノブを…開けた。
すると、どうだろう。
ドアの境目で待ち構えていた大きな手のひらが……パチンっと私の顔面を強打した。
「……………?!いたっ……。」
「最終通告だ。ストップかけてやったんだから…有り難く思え。」
「らにいって……(何言って)」
口元が押さえつけられているから…上手く、しゃべれない。
顔面鷲掴みって……どうよ?
酷くない?
「…………。やべ、このまましゃべんなよ…。くすぐったいし。」
「なら、はなひて(離して)……」
「アンタが後ろに下がればなんも問題ないけど?」
「…………!」
指の隙間から……悠仁の横顔が辛うじて見てとれた。
わざわざ顔を逸らして…マスクまでして。
どこまで…焦らす気なのだろう。
自分が会いたくて、来たんでしょう?
今、どんな顔してるのか……見せてみなさいよ。
「………ってか……、息、苦しーし!」