明日ここにいる君へ
1歩後ろに下がって。手のひらの拘束から逃れると……。私は直ぐに、君の手を掴み取った。
抵抗する暇なんか…与えない。
煽ったそっちが、悪いんだから。
一瞬…、悠仁がギュっと手を握り返した。なのに、抵抗するでもない。君の全てをここに預けるようにして…ただ、握っただけだった。
それをいいことに…ぐいっと自分の方に…引き寄せる。
すると―――…
当然と言えばそうであろう。
中途半端に開かれたドアに、悠仁の顔が…激突!
「「…………………。」」
鈍い音が響いてから……数秒。
沈黙が。
――……重い。
「これって……仕返し?」
「ゆ……、悠仁サマ。これには深―いワケが……。」
顔を抑えて…悠仁は下を向く。
「「……………………。」」
怒ってる…。
これ、絶対…怒ってる。
「……ごめん、わざとじゃないよ?」
「……………ナニかが違う…。」
「え?」
「手を握る、んで、ドアを開けてくれる。それから…『どうぞ』って…歓迎されるはずじゃあないの。」
「……………。」
「バッカだなあ……、七世は。」
それでも、握り合った手は…離れることはない。
「下手くそ。もっと上手く…演出しろよ。」
悠仁が、扉の間から…身を滑らせて、部屋へと入って来る。
バタン…、と背中でドアが閉まって。
私の身体は……すっぽりと。
悠仁の腕の中へと――…包まれた。
「もう、駆け引きは…おしまい。七世、降参しとけ。」
「アンタこそ……。」
「……七世が大人しく降参したら…、してやってもいいけど。」
「何で悠仁のが上からなのよ。」
「認めようとしないから。」
「………何を?」
「……そろそろさー…、聞きたいじゃん。あと一息。」
悠仁が話す度に、首筋へと彼の吐息が…触れる。
「ちょ……、くすぐったい。」
「さっきの仕返しの『仕返し』。」
「………!」
駆け引きはおしまいだと言いながら…
口ばっかりな茶番劇。
堂々巡りで、先に進めない…関係。
いっこうに…顔も見せてくれないのは…
賭けに出ているのだろう。
「悠仁。顔…上げなよ。」
「嫌だね。」
君の柔らかい髪が、頬に…触れる。
ポスっと頭を私の肩に乗せて、らしくもない…抵抗。
「悠仁。アンタが……言ってたんだからね。ちゃんと相手の顔見て返事したいって。こんなんじゃ…返事もできない。」
それをわかってて…していることは、私にだって解る。
「……………。」
「………ふーん、もしかして…怖いんだ?」
「オイ、コラ…、何でアンタが上からになってんだよ。」
「だって、ここは私のテリトリー。」
「……あっそ。よーやくアンタの内側に入れたってワケ?んじゃあ、遠慮なくズケズケと言えばいいじゃん。その方が七世には言いやすいんじゃねーの。どーせ返事は…わかりきってるし。」
「…………。……え?」
「言え。そしたら…顔くらいは見せてやる。」