明日ここにいる君へ
体育館は相変わらずの…盛況ぶりで。
その大半が、悠仁を見ていると思うと……少し、後ろめたい気分になった。
ギャラリーの前列へと滑り込んで、フロアに散らばる部員達に目を移す。
「……いた。……遠いなあ…。」
君に触れたのが、もう何日も前のことのようだった。
「……あ。バッシュ…新しくなってる。」
その、バッシュからスラリと延びる足。
適度に膨らんだ筋肉が、機敏な動きと共に…力強さを象徴している。
コートの中で、舞うように…
ピボットさえも、芸術的に見えるのは。
私が…君を特別視してるから?
君を…初めて意識した場所。
君が輝く場所。
君から、目が…離せなくなった場所。
他の子みたいに、堂々と応援なんてできないけど…
こっそり、いつでもここで…君を見ていていいですか?
「休憩!」
監督の指示に。
部員がそれぞれに…コートの外へと散って行く。
水分補給する者もあり、
教えを乞う者もあり。
その中で……ただ一人。
コートの中を歩いている者があった。
エンドライン付近まで来ると、真っ直ぐに…
ギャラリーの方を見上げて。
人指し指で……
何かを指す。
何か、と言うよりは……。
これは。
私は……急いで身体を翻して。
人の視線から…逃れようとする。
「ななせー、俺のタオル、頂戴?」
……が、更なる追いうち。
背中に届く…、君の声。
「……名指し……、か。」
「隠れたって無駄。とっくに気づいてるっての。」
「…………。」
「早く。休憩終わる。」
「………………。」
徐に…振り返って。
鞄の中から、さっき借りたタオルを取り出す。
手すりから身を乗り出して…、手元から放ったタオルが、フワリと宙を舞う。
ソレは。
悠仁の頭上の影に目掛けて…、ゆっくりと…落ちていく。
願わくば――……
その、『悪者』に、覆い被さって。
マジックのように、何処かに葬り去ってしまえばいい。